7 どっちもイケるクチ


「ん……」
 両手で顔をかばう姿勢の御殿がゆっくりと瞼を開けた。
 瞳に沈みかけの夕日の光が入ってくる。
 握りつぶされたはずの自分の体はいつもと変わらず健在であり、手足を見回しても折れたり取れたりしていない。御殿は油をさし忘れた機械のようにゆっくり顔を上げる。
「……どういうこと?」
 敵の巨大な腕を見ると、肘から下がモクモクと黒煙を出して蒸発していくのがわかった。
 御殿を掴み損ねた手は跡形もなくなり、暴魔は消えた己の腕に残りの腕をそえるながらあえいでいる。
「これは――」
 もがく悪魔、びしょ濡れのわが身――御殿はそれらを交互に目をやり、キョロキョロと周囲を見始めた。
「なるほど、そういうことか」
 思わぬ状況の中、御殿はひとり疑問を抱き、ひとり納得をする。
 エクソシストを握りつぶさんとする魔の手がたっぷりと聖水を含んだ御殿の制服に触れるのと同時に霧のように消失していた。
 悪魔にとって聖水は強力な硫酸である――すなわち、目の前で悶える暴魔は強力な硫酸を含んだ制服を握ってしまったのだ!!
 聖水を含んだ制服はシールドと攻撃の役割を果たす。
 聖なる服。聖服――それは絶対的攻防の証。
 校舎に2人、追い込まれてなどいない。むしろ――

「形勢逆転!!」

 ニヤリと笑う御殿の手前、暴魔は失った右手を手前に引きよせ、ただ呆然としていた。
「ふう……」
 御殿は長い髪を整えた。これから反撃に打って出るわけだが、
「さて……どうしたもんだろう?」
 敵の攻撃に対して耐久性ができたとはいっても、どうやって攻撃にでる? 光るスターを取ってBダッシュできる状況というワケではない。
 御殿の頭脳が、いくつかある対策の中から一つを選ぶ。
「――よし、その手でいくか」
 御殿の選んだ作戦。それを実行するには人手が必要だ。

 フェンスから校庭を覗いていると、後ろの方角から巨大な槍剣を手にした想夜が低空飛行を保ちつつ階段を上ってきた。

「御殿センパアアアアアアイ!」

 屋上に着地後、お花畑を走ってくる麦わら少女のように笑顔で手を振って御殿に向かってくる。どうやら一匹目を片付けたようだ。
「想夜……ちょうどよかった」
 想夜の手が必要だった御殿は安堵の笑みをつくり、手をあげて相槌を打つ。「よくやった!」と抱きしめてやりたいところだ。が、想夜の後ろから猛突進で向かってくる小型暴魔を見てギョッとする。

「しつこいから逃げて来ちゃった~~~!!!」

 泣きっ面で駆けよってくる想夜の一声にガクッと肩を落とす御殿――追いかけられて敵前逃亡というオチ。安堵の笑みと相槌のために上げた右手を返してほしかった。
 けれど案ずることはない――こちらには大量の聖水・・・・・という核弾頭を入手している。
「小型を屋上におびき出してくれたおかげで一気にカタがつきそうね」

「えー? なにー? 聞こえなーい! なんか言いましたー? きゃー!」

 想夜が小型に追いかけられながら、あっちこっち走り回って逃げている。
「偶然ながらも想夜のとった行動は正しかったわね」
 戦闘本能から勝利への道を読み取って逃げてきたのだとしたら、しょうらい立派なソルジャーか占い師になれる……かもしれない。
「想夜! 小型はわたしが引き受けるから、あなたはタンクの水を大型にブチかまして!」
「タンクの水を……ですか?」
 御殿の横に来てキョトンする想夜。
「タンクの中に聖水を作ったわ」
 と説明した。
「なるほど~」
 それを聞いた想夜が納得。ふたたび羽を広げて飛翔。「鬼さんこちらー」と大型暴魔を挑発しながらタンクのほうへ誘い込む。空中を飛びながら、大型暴魔を屋上から退場させた。

 想夜のおかげで御殿の行動に余裕ができた。
「大型は妖精さんにまかせておくとして――」
 御殿は小型と向かい合いながら、貯水タンクとの距離をつめた。その後、ポケットから小瓶を取り出し、忍者がクナイを投げるように内側から外側へ大きく腕を振り、突進してくる小型暴魔の前足めがけて投げつける!

 ジュッ!

 ナイスピッチング。聖水はみごとに暴魔の足を捉えた。
 大げさなほどの蒸発音のあと、小型暴魔の足が溶けて斜めに傾く。体勢を崩した巨体がそのままタンク真下に突っ込んでいった。

 ドオオオオオン!

 校舎全体をゆさぶるほどの振動が御殿の足に伝わってくる。その反動で鉄柱がグニャリとまがり、大きく傾いたタンク半分がフェンスを倒して校舎外にはみ出した。
「今よ想夜!」
「了解!」
 御殿の合図に空飛ぶ想夜がウインクでビシッと敬礼。貯水タンク目がけて急降下、思いっきりワイズナーの刃を叩きつけた。
「いっけえええええええ!!!」

 ドッ……ピシッ!

 タンクからけたたましい音がして破裂、中に詰まった聖水が裂けたタンクの隙間から噴水のように唸りを上げた。
 ワイズナーにより絶妙な角度で切り込みを入れたため、あたり一面に撒き散らされた聖水が高圧洗浄機のように2体の暴魔めがけて襲い掛かる!!
 勢いよく空に舞い上がった聖水は、空に向かって大量のシャワーを撒き散らし、にわか雨のようにあたりに降りそそいだ。
「すごーい、聖水のスコールだ♪ うわっ!?」
 高い空のもと、水圧で想夜まで吹っ飛ばされてしまう。
「悪魔にとっては酸と同様――たっぷりかけてあげるわ。全部飲むのよ!」
 噴水を煽るように見上げた御殿は勝利の笑みをうかべて叫んだ。
 小型暴魔は目の前で溶け出し、大型暴魔は校舎に登ってくる途中で肉片をボロボロこぼしながらスベリ落ちてゆく。


 吹き飛ばされた想夜が空から降りてきた。ワイズナーを握ったまま空を見上げ、目を閉じ、ふりそそぐ聖水のスコールにその身を預ける。
 想夜の姿が美術館に飾られている妖精絵画のようで、御殿の心に安息を与えてくれた。
「終わりましたね」
「終わらせたのよ……あなたがね」
 御殿も想夜に習い、空を見上げてスコールに打たれた。
 硫黄の匂いがあたりに充満し、あれほどまでに大きかった暴魔は蒸発を続けながら、やがて完全に姿を消した。
 ちょうど日が沈む瞬間のできごとだった。屋上から夕日に向けて聖なる虹が掛かり、夕日が消えるころには無くなってしまう。

 虹――2人によって作られた聖なる虹。小さいけれど、一瞬だけれど、それは死線を共にした絆の証として残るもの。キラキラ光る証として。

 虹の真下、
「「ふう……終わった」」
 2人は背中を合わせてグッタリとヘタレこんだ。


 カラスと一緒に帰ろう、みたいな歌があった気がする。
 カラスの鳴き声が響く。夕焼けが終わる。夜のはじまり。道端の電灯が灯り始める頃、想夜と御殿が並んで歩いていた。
「うん……うん、今から帰るから。切るわね」
 御殿は狐姫に用件を伝えてから電話を切った。

「――おまたせ」
「狐姫ちゃんと話してたんですか?」
「ええ」
 幸い、暴魔にやられた腕の傷は大したことがなかった。いや、治りが早いのか。傷口はそれほど目立ってない、簡単な止血でもすれば充分だろう。千切られたブラウス、傷ついた胸元を覆い隠す御殿を想夜が横からチラ、チラッと上目使いで覗き込む。
「御殿センパイ、なんかもう……ホントごめんなさい」
「え? なぜ謝るの?」
 御殿は想夜のションボリ顔を見てキョトンとした。
「だって部活の手伝いとか、……暴魔のこととか」
 エーテルバランサーのあたしがしっかりしていればセンパイを巻き込まずにすんだのに――そんな顔の想夜に御殿が言う。
「手伝いは学校を案内してくれたお礼、暴魔の件は偶然。教員に扮した魔族の屍骸も聖水で消したから問題ない――さっきも言ったでしょ?」
「……うん」
 ずっとこんな調子。

 校内で切られた男は教員になりすました魔族だった。その男が地獄笛を使って暴魔を呼び出したようだ。偶然にもエクソシストの存在に気づいたからだろう。
(けれど、本当に偶然なのだろうか?)
 自分で言っておいてなんだが御殿は疑問に思った。
 妖精の想夜、エクソシストの自分、計画的に襲われるならまだしも、「ぐうぜん奇襲を受けた」と決めつけるのも軽率な判断だ。
 念のために学園の警護を――と、御殿を学園に送り込んだ宗盛の読みが的中したのも気になった。彼はなにかを隠している。こうなることを知っていたかのよう……御殿はそう感じていた。

 トボトボと家路を急ぐ想夜と御殿。戦闘とダメージの疲労からか、両者とも足が重い。全身の力が抜け、肩を落として歩く姿は、買ったばかりのエロ本をなくしてしまった中学生のように元気がない。手にしたカバンが100トンハンマーのように重く感じる。

 想夜はタンクから勢いよく噴き出した聖水の直撃を喰らってビショ濡れになっていた。
 御殿も先ほどの貯水ダイブでバケツをひっくり返したズブ濡れ度。仕上げとばかりに聖水シャワー。2人ともパンツの中までビショ濡れだ。
 今日の授業に体育がなかったため、余分な衣服を持ってなかった。2人ともジャージという逃げ道にも恵まれずに校舎を後にしたのだ。

 徒歩で帰れる距離とはいえ、すれ違う人々に変な目で見られてクスクス笑われている。
 「雨が降ってきたのか?」と言わんばかりに空と想夜達を見比べる兄ちゃんや、「なに、ゲリラ豪雨?」とヒソヒソ話す通行人多数……それならまだマシなほうで、
「ママー、あのおねーちゃん達おもしろーい!」
「し! 見るんじゃありません!」
 2人のことを指差す子供。それを諭す母親にまで変人扱いされる仕打ち。しまいには面白がる小学生達が携帯端末を取り出し、パシャパシャと写メり出した。
 心優しい想夜でも、ケリの準備段階に移行しようとしていた。
 そんな通行人たちを尻目に肩を落として並んで歩く。近所の変質者として動画にアップされないことだけを祈る2人だった。



汁神しるがみさま


 妖精の存在で妖精界の存在が明らかとなった。
 妖精界は実在する――想夜という妖精本人から聞かされた御殿はその事を疑わざるを得なかった。

 魔界は妖精界と手を組んだ――。
 あの時の言葉の一部は証明された。

 これから先の戸惑いを隠しつつも、御殿は口を開いた。
「ズブ濡れのまま寮に帰ると、なにかと催促されない?」
「多分……いえ、絶対なんか聞かれます。寮長おっかないから」
「よかったら、うちで服乾かしていきなさい」
「いいんですか?」
「そのままだと風邪引くでしょ」
 想夜は当事者だが、先ほどの学校での騒ぎとは無関係だということを周囲に教えておいたほうが想夜のためにもなるだろう。それに他者に詮索されるのを避けることで、御殿たちもあとあと行動しやすくなる。
 なにより雨に打たれた子猫を放ってはおけない。
 ――そんな理由で、御殿は想夜を自宅に誘った。

 学校での出来事は宗盛にも報告しておくとしよう。けれど想夜が妖精だということは無かったことにする。しだいによっては想夜の退学処分になるからだ。それが御殿の結論。


 マンション付近、細い道を歩いていると想夜の歩みがピタリと止まった。
 すぐ隣を歩いていた御殿が想夜の遅れに気づいて振り返った。
「どうしたの?」
 暗がりの中、ちょうど電灯の真下にポツンと想夜は立ち尽くしていた。ほわいとはうすに入ることを躊躇しているようだ。
「遠慮しなくていいのに。お風呂くらい入っていきなさい。服も乾かすんでしょ?」
 風邪引いちゃうから、と御殿が歩み寄った瞬間、うつむく想夜がしゃくり上げた。
「こ、御殿センパイは……なんとも思わないんですか?」
「ん? なんのこと?」
「ひ、人が悪いです!いじわるは……無しです」
 顔を赤くして口を尖らせる。少し拗ねているようだ。
「ふむ……」
 自分の顎に手をそえ、考える素振りをつくる御殿。別にいじめたわけではない。御殿は職業上、変わった種族と対面することに慣れてしまっている。慣れ、とは恐ろしいものである。非常識と思っていたことが常識に変わってしまうのだから。
「想夜、わたしはアナタが人間だろうと妖精だろうとどうでもいいのよ。無論、あなたが人を殺める悪魔や暴魔だったら地獄へ送り返すだけのこと」
「シビア、なんですね……」
 少しがっかりした感じで苦笑する想夜。
(あたしは何を期待してたんだろう? 御殿センパイに特別扱いして欲しかったの?)
 と自己嫌悪にひたる。
 力なく微笑む想夜の頭を御殿がなでた。濡れた髪が少しの摩擦を作るが、やはり妖精――人間離れしたシルクのようなサラサラの髪。
「悪魔は地獄へ送り返すけど……想夜は違うでしょ?」
「――え?」
「アナタは人間以上に人間のことを考えている。自分の命よりも、わたしやみんなのことを優先して行動してくれた」
 それがわかっているからこそ言えるシビアな言葉。人間同士でさえも相手をおとしいれる輩はごまんといるのに、想夜は命をかえりみずに戦いを挑んだ。

 この狂った世界で、想夜の命がけの行動は人間たちのよき見本になる日がきっとくる――御殿は目の前の妖精に対して、そんな感情を抱いていた。

「あたし、いつも思うんです」
「ん?」
「あたしが思っているよりも世界はずっと広いのなら、神様はあたしに何を見せてくれるんだろう? ――って」
 神様に疑問を抱いている妖精。それを聞いた御殿がクスリと笑う。
「神様はなにも見せないわよ。何を見るか、何を捉えるか、それをどう評価するのか、それはいつも自分の意思で決めること」
「選択肢があるってことですか?」
「ええ。この世界で何を見つめてゆくのかは、想夜が決めること。あなたにはその自由がある、でしょ?」
 元気が湧く言葉だ。が、そうとばかりも言ってられないのが世の常だ。

「想夜は人間の世界をどう持ってるの? 楽園のようなものを想像しているのなら、考えなおしたほうがいいわよ? いいことばかりじゃないから……」
 いいこともあるけれど……と、つけ加えておいた。
 念を押す御殿の言葉に、想夜はうつむきながらも動じることなく告げた。
「いいこと、たくさんありますよ。悪いことよりずっと、ずっとたくさんありますよ」
 想夜は見上げてニコリと御殿に微笑んだ。
 見つめあう視線同士が訴えている――「あなたという勇敢な存在と出会える世界だから……ほら、いいことあるでしょ?」と。
 そんなやり取りにお互い吹き出してしまう。

「センパイって強いんですね……」
「想夜こそ……すごい武器持ってるのね。重くないの?」
 腰痛とかにならないか心配だ。人間が持ったら椎間板が全滅してしまうかもしれない。
「重くないですよ……いや、そういう強いの意味じゃなくて。いえ、そういうことでもあるんですけど……」
「人生うんぬんの意味?」
「それです」
「まあ……修羅場くぐって来てますからね――」
「御殿センパイ、よく濡れますもんね?」
「それは言わない約束」
 暴魔の一戦から開放された安心感も手伝ってか、ふたりしてクスクス笑う。

 想夜が深呼吸して空を見上げて言う。
「ひとつだけ、わかったことがあります」
「ふ~ん……なに?」
 想夜は空から視線をはずして振り返り、御殿を見る。
「人間は御殿センパイみたいな人がいるってことです!」
 どういう意味だろう? ――暴力祈祷師とか壊れたサイクロン掃除機などと言われることはあるが、深く追求しないでおく御殿だった。

 マンションを見上げると、自室の電気がついてる。
「狐姫は帰っているようね」
 部屋は複数あるのに、自分達の部屋の電気しかついてないのは、いささか寂しいものである。が、妖精という来客で、きっと賑やかになることだろう。


 玄関のドアが開いた瞬間、主人を待ってた犬のように狐姫がリビングから走ってきた。
 ケモ耳も尻尾も出しっぱなし。だけど問題ない。
 先ほど御殿から連絡があった――『想夜を連れて行く、耳と尻尾は隠さなくてもいい』、と。なので気を使わずに獣バージョン。本来の姿なのです。
 部屋の奥からテレビの音が聞こえる――暇つぶしに番組を見ていたようだ。
 狐姫は開口一番「ハラ減ったー!」と言いかけてギョッとする。
「うおぅ!? なに、おまえら……泳いで帰ってきたのん?」

 母川回帰ぼせんかいき――サケは産卵のために生まれた川に帰ってくる。一説によると生まれ故郷の川のニオイをかぎ分ける能力があるとか。御殿も夕食のにおいにつられて帰ってきたのだろうか。

「まるでサケの産卵ね」
 御殿、スルー気味で返事する。
「まあいいや。で、御殿……おっみやっげは?」
 腰をクネクネさせながら、狐姫が満面の笑みで両手を出してきた。
「ないわ」
「チッ、ねーのかよ。アイスくらい買ってこいよな、この役立たずのウスノロ」
 舌打ちでお出迎え。
 危うく暴魔に食い殺されそうになったというのに酷い言われようだ。この格好でコンビニに入れとでもいうのか。無茶なことを言わないでほしい。

 御殿はローファーを脱いでひっくり返し、中にたまった水を捨てる。
 ジャー。と大げさすぎる水音。
 御殿の後ろで想夜が目を輝かせて興奮している。それはもう、狐姫に飛びつきそうなくらいに鼻息を荒くして。

「うわあ、御殿センパイ! 耳ですよ耳! それに尻尾もある!」

 感極まって狐姫に近づいた。
「あ? ウッセーなあ。ジロジロ見んじゃねーよ、金とるぞ」
 狐姫のケモ耳を見た途端、想夜の「可愛い~」が連発する。
「御殿センパイ、さわってもいいですか?」
「いいわよ」
 ジャー。
「わぁい♪」
「おい」
「あ、尻尾は嫌がるからやめてあげてね」
「はーい♪」
「おい」
 想夜、狐姫のお耳にタッチ。
 サワサワ、モフモフ。
「うわあ、耳ってモフモフしてるんですね」
「おい」
「尻尾! 尻尾さわりたい!」
「おい、おさわり喫茶じゃねーんだよハゲ」
 ハゲってゆーな。リボンで結えるくらいはある。
 想夜が御殿におねだりする。
「御殿センパイ、尻尾! 少しだけ! いいでしょ? お願い!!」
 想夜がウインクしながら両手を合わせて哀願する。
 それに対する御殿の答えは――
「しかたないわね……いいわよ」
「おい!」
「GOー!」
 想夜突撃!
「GOー! じゃねーだろ!」
 狐姫が猛牛のごとく突進してくる想夜の頭を両手で押さえつける。
 「うわ、何だよこの馬鹿力!?」――この時点で力負けしている。あり余る性欲で覚醒した男子の如く、よほどお触りしたいらしい。
「おい、ちょっと待て。なんなのお前ら? なんで俺を触るのに御殿の許可がいるわけ? 耳は俺のもんだろ、持ち主は俺だろ? 違うの? ねえ違うの?」
「うん、耳は狐姫ちゃんの。でも尻尾は――」
「尻尾も俺のもの! おさわり許可は俺に聞くのがスジなんじゃねえの!?」
 想夜が暖かい眼差しを作る。
「すべてのものは自然からの借り物、いずれ自然に帰ってゆくのです。つまり、1人のものは皆のもの――」
 ファアアアアアア。天から優しい光りが差し込む。
 想夜が胸に手を当てながら女神のように微笑んだ。
「さあ、心を開いて、尻尾を差し出すのです」
「あーそーかよ。布教活動ならよそでやれ。そもそも人に頼む態度が微塵もないだろオマエ」
「かわいいこひめちゃんのみみとしっぽさわらせてくださいおねがいしますわぁいやったぁありがとうございますほんじゃましつれいして――」
「もう触ってるだろ……棒読みかよ」

 想夜はペットショップの子犬を抱くように、狐姫のケモ耳を愛でている。

「触りすぎ。触りすぎ。さーわーりーすーぎっ」
 嫌がる狐姫。
「うわあ、ピコピコでサラサラ……可愛いなあ。欲しいなあ~、穴に指入れてもいいよね?」
「おい聞いてん――」
 凄んでいた狐姫の表情が凍りつく。とたんに弱々しくなり、顔面蒼白になった。
「…………え、何? 今なんて言ったの!?」
 狐姫、すばやく耳をガード。
「やらせねーよ! させねーよ! 変なもの入れるなよな!」
「指一本だけ! ね、お願い!」
「そんなの入んねーよ!」
「先っちょだけ! 先っちょだけ!」
「無ぅぅ理ぃぃぃ」
「痛くしないから」
「そう言って全部入れるんだろ!?」
「第一関節くらい」
「そ、そのくらいなら……」
 いいのかよ。
 想夜の細い指がゆっくりと狐姫に挿入されてゆく。
 狐姫は紅潮し、こそばゆそうに耳をピクピク痙攣させている。いちおう乙女の敏感な場所だけど、逃げるのもカッコ悪いので腕を組んでこらえている。
「ほぉ~ら、狐姫ちゃんの中に入っていきますよ~」
「んっ、ん……あっ、そこダメッ。奥はやめて奥はやめて……」
 狐姫、クネクネと身悶える。
「もうちょっと、もうちょっとの辛抱だから…………すべり易いように何か塗る?」
 ハアハア……息があがる想夜。
「いい、なにもつけないで。ま、まだ? まだ入んないのか?」
「入った! うわぁ、すご~い♪ 第一関節まで入ったよ狐姫ちゃん、よくがんばったね!」
 とっても嬉しそう。
「あ~、はいはい。よかったな」
「あたしのをしっかりくわえ込んでるよ、狐姫ちゃんのがっ」
「そーですかい」
 立て続けに尻尾へと想夜の手が伸びてきた。
「それじゃあ次はお待ちかねのモフモフタイムを――」
「っっざけんなよな! ゼッテー触らせねーよ!」
「えー、指まで入れたんだから最後までイッちゃおうよ~、……ね?」
「や、やめて、ホント、いやマジで――」
「いっちゃおう! いっちゃおうよ狐姫ちゃん、最後まで!」
 どこぞのエロカメラマン、ここにあり。
 そんな光景を前に御殿が微笑んだ。
「ふふふ。2人とも、すっかり仲良しね」
「御殿、おまえ視力落ちただろ? あした眼科行って来いよ。 ……てか、なんでお前らズブ濡れなの?」
 今さらかよ。聞くの遅せーよ。
 そんなこんなで賑やかな時間が始まった。


「ブハハハハハハ!!」
 タオルを手渡す狐姫。学校で起こったことを聞かされ大爆笑している。心配するどころか腹を抱えて転げまわっている。
「プッ! そんなの職員室からライターパクって火災装置に火ぃつけりゃいいじゃん。それでスプリンクラー動くだろ? そこから聖水出せばいいじゃん」
「学校は禁煙でしょ? ライターなんてないわよ」
 人払いをしてくれた恩人に強く出ることもできないので、声小さめ。
「理科準備室のバーナーという手もありましたけど……あれはガスが必要ですね。アルコールランプに火をつけるためのライターがあったっけ……どこにしまってあるんだっけ?」
 後からあれこれといらん知識を出してくる想夜。
 狐姫が御殿にニヤニヤと顔を近づけてくる。
「昨日といい今日といい、お前よく濡れて登場するよな? なにそれ、流行ってんのか? 楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ」
 ケタケタ笑う。かんぜんに御殿をいじって遊んでいる。
「そうね。狐姫は少し頭を冷やしたほうがよさそうね……こんど氷水の入ったタンクを用意しとくわ」
 御殿はタオルで髪を優しく挟むように拭きながら言い返した。

 浴室の電気を点け、想夜を中に招き入れる。
「ここが浴室――想夜、先に使っていいわよ」
「お、おじゃましまぁ~す……」
 想夜、2度目の訪問。借りてきた猫のように申し訳なさそうに上がり込む。さきほどの狐姫への洗礼はなかったことにして。
 その姿にニヤついた目線を送って壁にもたれかかる狐姫。
「こんなに濡れちゃって……2~3発天井ブン殴ればスプリンクラーも誤作動起こして水出したんじゃね?」
「「え? 出るの!?」」
 ビショ濡れの2人に声を上げられてビクッとする。
「お、おう! かるく弾けば出るよ……ビュービュー出るよ聖水! そりゃあもう、クジラの潮吹きみたにビュービューな! 後始末が大変だぜ! 垂れ流しだぜ! まったく、だらしないスプリンクラーだな!」
 あっちこっちに目を泳がせ、拳を作って根拠なき力説。
 そして最後に「多分な」と、つけ加えた。はいはいテキトーテキトー。
「♪~」
「口笛吹いてごまかしてる……」
「見ないであげて」
 狐姫はポリポリと鼻の頭をかいて目線を反らした。適当発言に送られる冷たい眼差しが痛い。

 浴室に入ろうとする想夜のため、御殿は代用の服やバスタオルを用意した。
「はい想夜、ここに置いとくわね」
「わぁい、ありがとうございます!」
「代えの下着は……まぁその、狐姫の短パンでガマンしてね」
 妖精の、しかも女の子にトランクスを履かせるのはマズイだろう。狐姫以外の女の子を前にした御殿は、もう一度自分の性別を見つめ直す必要があると感じた。

 女の子といえば狐姫も狐姫だ。「男女が同じ部屋で寝るのは問題だから――」と御殿が部屋を分けようとするが、「え~、どうでもいーよ、そんなん」と面倒くさそうにして言うことを聞かない。

 妖獣とはいえど女の子。その認識があるのだろうか? 御殿はいつも頭を悩ませている。狐姫は御殿のことを男としてカウントしてないらしい。
 実のところ、御殿本人も「男」という自覚がなかったりする。性別に関しては適当なコンビなのだ。

「あの子がお風呂からあがる前に夕食の準備をしましょう」
 御殿は濡れた制服を脱ぎ、代えのシャツに着替えてから準備に取り掛かった。


 少し長めの白シャツ、サイズ大きめ。裾からトランクスが見えそうで見えないあたり、羞恥心は感じている御殿。シャワーを浴びた後、ちゃんとした服に着替えるつもりでいた。

 御殿が狐姫に人祓いの札を差し出す。
「助かったわ。ありがとう」
「ん」
 狐姫は無造作にひったくって奥の部屋に引っ込んだ。
 狐姫の背中に笑みを浮かべた御殿が台所へ向かう。

「さて、お米のほうは――」
 炊飯器の中を覗き込むと白米がふっくら炊き上がっている。研ぎ方、炊き方も相方に伝授してあるので抜かりはない。出来た教え子だ、と関心する。
「ちゃんと炊いていてくれたのね、ありがとう狐姫」
「あ~。 ……ちゃんとお米立ってたろ~?」
 壁越しからナマ返事、台所とリビングで会話のやりとりが行われる。狐姫は携帯ゲーム機とにらめっこ。勇者狐姫のレベル上げ。

 御殿は髪をシュシュで束ねて台所にかまえた。
 前もって下ごしらえしておいた食材にひと手間加えて切ったり焼いたり煮込んだり――手馴れた手つきで仕度する。
「♪~」
 鼻歌。シャツの胸元から見える谷間、エプロン、生足姿が醸し出す格好は、どこぞのエロい新妻そのもの。

 いつも御殿か狐姫のどちらかが台所に立つ。調理回数は御殿のほうが圧倒的に多いし、料理の腕にも差がある。とはいえ留守が多く、いつも自分が作れるとは限らないので、ときどき狐姫に作り方をレクチャーしている。いざという時役に立つ。

 続いてサラダ作りに取りかかる。
 テーブルの上に置いてあるビニール袋からドレッシングを取り出した――狐姫が帰宅時に買ってきたもの。それでサラダが食べたいらしい。
 巨匠のごとく味にやかましい狐姫が絶賛している新発売のアイテム、さぞかし美味しいのだろう。
 細長いマツタケ型のペットボトルに入れられたドレッシング。独特な形をしている。
「どれどれ――」
 御殿の好奇心をもつついてくる調味料。一口だけ、とキャップを外して味見する。さすが料理スキー、「味見は基本」の精神を常に持っている。
「おっと」
 指にとったドレッシングが垂れそうになり、上半身を器用に動かして下から指を舐め上げる。口からはみ出たのを手で受ける瞬間、立てていたドレッシングの容器に手を引っ掛けてしまい倒しそうになる。
「あぶなっ……ふぅ」
 慌てて容器を手でおさえ、ホッと安堵のため息。
 相方が楽しみにしている期待の調味料だ、
「こぼしました……じゃ済まされないわね、絶対」
 容器を手にして立ち上がろうとした。その時だ――

 ぐぃ……ビリリッ。

 戸棚の金具にシャツの裾を引っかけてしまい破いてしまう。御殿の上半身がはだけて滑らかな肩が露になった。
「昨日買ったばかりなのに」
 金具にとられたシャツを引き戻そうと、無理な体勢で1人モゾモゾと動きはじめる御殿。その行動がさらなる悲劇を生み、今度はトランクスを金具に引っ掛けてしまう。
「だんだん身動きが取れなくなってゆく気が……」

 はだけたシャツが邪魔なので、ドレッシングの容器を右、左、また右……と起用に持ちかえながら上着だけ脱いだ。
 ゆっくりと立ち上がったものの、金具に引っ張られたトランクスが足首にからまり、大きく前につんのめる――それをキッカケに、手元からスルリと抜けたドレッシング容器がド派手に飛んでゆく。
「しまった!」
 御殿はドレッシングに向かってダイブ。
 職業柄、跳ぶのも転ぶのも慣れている。ビルの屋上からダイブしたことだってある。失敗だってした事もある。

 ……しかし! このボールだけは死守しなくてはならない!!!

 御殿の脳内。目の前に芝生が広がる――2ストライク2アウト、満塁……野次と声援が飛び交う野球場、アンド鎌田行進曲。打ち上げられたフライをボロして、明日の朝刊やネットでボロックソに叩かれるヘタレ選手。そんな悲劇が脳裏をよぎる。

「朝刊に載るつもりは……ない!!!!!」

 「ない……ない……ない……」スローモーションで飛んでいく容器めがけて全裸の咲羅真選手、タマドレッシングに食らいつく!
 脳内球場の応援席はアドレナリンで満員だ。ヘッドスライディング・イン・ザ・キッチン。
 パシッ!
「ふぅ……」

 ワアアアアアア!!

 見事、両手でキャッチ。場内からβエンドルフィンの歓声が湧き上がった。
 起き上がろうと思うも力入らず、床に突っ伏して四つんばいになった。
「ハァ、ハァ……ハァ……」
 安堵から甘い吐息とともに床の上でぐったり。御殿は掌に有り余るほどの極太容器を見つめた。
「けっこう大きいのね……」
 まるで自分だけの宝物であるかのように大切に握りしめている。
 ああ、これだけは誰にも渡したくない、こぼすなんてもったいない……そんな御殿の願いに汁の神が答えてくれたのだろう、キャッチした時に力あまって握り潰した容器から白い液体がビューッ! と発射されていたことに気づかずにいた。

 ビチャビチャビチャッ!

 御殿は天井から降りそそいだ白濁液の洗礼を全身であびた。
「……」
 顔も体も汁まみれ。汁神様の祟りか。
 手には半透明の容器に半分だけ残った白濁液ドレッシング。それを握りしめ、尚も物欲しそうに見つめている。
「半分だけ残ってる、大丈夫でしょう……多分」
 引きつり顔の御殿が腰を上げようとしたその時だ。

「おーい、どうした御殿ぉ?」

 台所からの大きな物音に気づいた狐姫が廊下から顔を覗かせた。
「ゴッキーでも出たの……ブフォ!?」
 目の前に広がる光景を前に、狐姫が度肝を抜かす。目玉が飛び出そうなくらい大げさにぶったまげた。
 驚くのも無理もない、全裸の御殿が大股開いて後ろ向きに突っ伏しウェルカム状態なのだから。しかも頭から顔から白濁液が滴り落ち、艶かしく汁まみれ。手には大事そうにアレ・・が握られており、それを物欲しそうに見つめている、ときたもんだ。

(御殿! 芸人的にオイシイじゃないか!)

 と、狐姫は少しうらやましいと思う。
 だが、それとこれとは話は別だ。減りに減ったドレッシングの容器を目にしたとたん、狐姫が叫ぶ。
「あー!! 何やってんだよ御殿、ふざけんなよな!」
 ガナリ立てる狐姫。ズカズカと台所に踏み込み、汁まみれの淫獣を罵りはじめた。

「それサラダにかけるやつだろ! お前にかけてどーすんだよ! サラダに転職か? でっけー乳ぶら下げやがって、この乳牛め!」

 ペシッ。
 狐姫が御殿のでっけー乳を弾いた。メスの自分よりもふくよかな胸に対し、あきらかに嫉妬が混じっている模様。
 御殿がドレッシング容器と体についた白濁液を交互に見つめ、必死の弁解。
「狐姫、これは、その、あの……」
 シュンとうな垂れる御殿。

「お前が買い直してこいよな、わかったな! こんな! 汁まみれの! でっけー乳! ぶら下げ! やがって!」

 タプン! タプン! タブン!
 狐姫は御殿の乳を両手で揉んだり弾いたりと、やりたい放題。
「や、やめ……」
 悶える乳牛をスルー。
「男のくせに! 男のくせに! 男のくせにっ!」
 ペチ! ペチ! ペチ!
 ぽよん。ぽよん。ぽよよよ~ん。
 狐姫、若干涙目。

「少し搾乳したほうがいいんじゃねーのか? なんだこのだらしない乳は! ミルク満タン、ハイオク満タンなんじゃねーのか?」

「う、動かさないで……で、でちゃう……こぼれちゃうでしょっ」
 (※ドレッシングのこと)
「はぁ? もう出てんじゃねーか! 垂れ流しじゃねーか!」
 (※ドレッシングのこと)
「出てないっ、まだ全部、出てな、い……半分残ってる……」
 (※ドレッシングのこと)
「この狐姫サマがこの量で満足いくと思ってんのか、ああん!?」
 (※ドレッシングのこと)
 ズズイ。ヤンキーよろしく狐姫が詰めよると、御殿は上目づかいで身をすくめた。
「ぅ……明日、買ってきます」
 「押忍、やきそばパン買ってきます」――みたく観念する御殿。はい、パシリ決定。

 ――ニヤリ。

 狐姫の口角がつり上がる。でもって、涙目の御殿にさらなる追い討ちをかけるため、ビシッと指差した。

「いいやダメだ! 深夜のコンビニに行け! あそこは夢を忘れたむさい野郎どもの巣窟だ。店員、客、ピザを主食としてる自称自宅警備員どもにその醜態を晒してこい!! ちゃんと『アナタの白くてドロドロした濃いアレくださぁ~い♪』って物欲しそうに頼むんだぞ、いいな! わかったな!!」

 『夢を忘れたむさい野郎どもの巣窟』部分では両手で体を抱いて身震いし、『アナタのくださぁ~い♪』部分は腰をクネクネ、甘ったるい声を出している――喜劇の天才表現者、焔衣狐姫。
「しょ、しょうがないか。こぼしちゃったの、わたしだし――」
 申し訳なさそうにションボリうなだれ、承諾する御殿。
 御殿が手元にあったティッシュ箱を手繰りよせるが、狐姫がそれを引ったくった。

「おいセーラ! な に し て ん だ! ティッシュがもったいないだろ? 拭 か ず に な め ろ……いいな!」

 どこまでも激しい罰ゲーム。どこかの国の学生寮――元富豪の貧しいセミロング娘みたく、学生だったにも関らず、使用人として働かされてしまいそう――そんなシチュエーションだ。
 狐姫は言いたいだけ言い残し、奥の部屋へ戻っていった。
 狐姫が部屋に戻る時に、「ふう、スッキリした」と声を洩らしたことを御殿は忘れない。絶対に。

 御殿は相方に言われるがまま、しかたなく手でドレッシングを拭うと、指先についたそれを悩ましい表情でペロペロと舐めまわした。
 こういう経験のない御殿、舌使いがぎこちない。それでも飢えたメス犬のごとく、瞳を潤ませきれいにナメとる。
 恥じらいよりも、ついつい舌が優先して動いてしまう。

 白濁液は御殿が想像していたよりも濃厚で美味しかった。

 ちゅぽんっ。
 指についたドロドロの白濁液を吸い取った。
「こんなに白くて濃くて美味しいなんて知らなかった……」
 (※ドレッシングのこと)
 3大欲求の一つを忠実に満たした御殿だった。
 がんばれよ、咲羅真セーラ。

 と、そこへ湯煙に包まれた想夜が、
「御殿センパーイ」
 せっけんの香りと入り混じった少女臭を漂わせ、フラフラと台所にやってきた。
「御殿センパーイ、強力なシャンプーないですか~? 洗剤とか、なんかこう……クレンザーっぽいやつとか……カラダ中、暴魔臭くって……」
 あれだけヘドロ血を浴びたのだから、しつこい汚れに悩まされるのも無理は無い。リボンを解いたセミロングの毛先を指でクネクネ。ここが女所帯と思い込んでいたらしく、想夜は全裸にバスタオルを一枚を巻きつけただけのケシカラン姿。
 それでも普段よりマシなほうで、女子寮の生徒たちはもっとスゴイ生活をしている。同性同士は気が緩む。女子校とくらべ、共学の女子が大人しいのは事実である。いやもうホント、ガチ事実である。
 女子は男の前では見せられないものが多すぎるのだ。猫でも被らなきゃやってられない……らしいよ?

 御殿が真っ青になった。
 だんだん想夜の足音が近づいてくる。
 廊下の想夜に向かって全裸の御殿が叫ぶ!
「ちょ、想夜! 今こっち来ちゃダm……」
「へ? ……うぁ!?」
 四つん這いの御殿が静止するが、時すでに遅し。
 床にぶちまけたドレッシングに足をとられた想夜がツルン! まるでスケート選手みたいにススス~ッと御殿めがけて滑ってゆく!
「キャー、御殿センパイ! 避けて避けて!」
「ふう……、どうせ避けたほうに滑ってくるんでしょ?」
「はい。セオリーですから、こういうのって♪」
 想夜ニッコリ。
 冷静な御殿はすでに諦めモードだった。ため息混じりで目を閉じている。諦めるの早すぎだろ。

 ずて~ん☆

 衝突がてら、奇妙な声を上げた2人がその場に倒れこみ、組んず解れず。御殿はもちろんのこと、巻いたタオルがはだけた想夜、2人して全裸の状態。
 突っ込んできた想夜が御殿を押し倒し、自分の両手に余るほどのたわわに実った御殿の乳をむんずと鷲づかみ。
 いっぽう御殿は想夜を受け止める状態になり、お互いスッポンポンのまま、想夜上位で床に寝そべった。
 御殿の体にこびりついた白濁液が想夜の体にネバりつく。
 ドゥルッドゥルの汁尽くし、ドゥルッドゥルの汁まみれ――グルメにはたまらん光景。ありがとう汁神様――。

 イタタタ――。
 一般人ならそういうセリフでも吐くものだろう。

 ――だが、この時の2人は違った。

 お互い、明らかな違和感に気がついたのだ。ナニかがおかしいのだ。
 そう……『ナニ』かが。

 きょとん……
 見つめ合ったまま微動だにしない2人。やがて――
「……」
「……」
 無言のまま、同時に、ゆっくりと相手の下半身に目を落とした。
「……」
「……」

 想夜の視線の先には、存在をアピールするかのように御殿のパトリオットミサイルが。

 その一方、御殿の視線の先には、少女にあってはならないモノが。

 お互い、のけ反り、のけ反らせ、フニャリ、ふにゃり。
 柔らかい二本のワイズナーがチャンバラごっこをしていたのだ。

「……」
「……」
 想夜、御殿。2人して開いた口がふさがらない。
 現実に起こったことを受け入れることができず、互いのワイズナーをまじまじと見つめる。

 そして――

『『ア゛ッ――――――!!!!!!!』』
『光秀のいぢわる! よくも裏切ったな!』
『うるせーバーカ! 騙されるほうが悪いんだもん!!』
『違うもん! ミッチーが先に裏切ったんだもん!』
『違うもん、ノブリンがワガママなんだもん!』
 テレビから聞こえる戦国武将たちの雄たけびが部屋に響いた――モニター内の将軍同士、刀や兜をこすり合わせて死闘を繰り広げている。
 その戦を食い入るように狐姫が見ていた。
「――あはははは、バッカで~! ……ん? 今、なんか聞こえなかったか?」
 テレビの前、床の上でゴロンと横になってた狐姫が振り向いた。
「いま誰かの叫び声が聞こえた気が……。ま、いいか。あはははは♪」
 あまり気にせず、テレビに向き直って大爆笑し続けた。


たのしい食卓


 白濁液を全身にたっぷり浴びた2人。シャワーでそれを流しおえた後、お互い顔を真っ赤にして複雑な表情のまま席についた。
 御殿は想夜の承諾のもと、狐姫に妖精の件を説明した。案の定、「どうでもいい」と興味なさそうにスルーされた。相方のそういうところは場慣れした者の強みだろう。妖獣は妖精ごときに驚かない。

 テーブルにはレパートリー豊富な夜食が並んでいた。が、おかずの説明は後回し。
 腕組みをした御殿が頬を染めながら目を閉じ無言状態。眉間にシワをよせ、最初の一言をなんと切り出したらよいのか、お悩みのご様子。

「――こ、こ、御殿センパイ」
 無言に耐えられなかったのか好奇心がそうさせたのか、最初に口を開いたのは想夜のほうからだ。感極まって、テーブルに手をついて身を乗り出してきた。
「どどどどど、どういうことですか!?」
「あん? なにがだよ?」
 声が引っくり返っている想夜の手前、シラッとした態度で狐姫はサラダに手を伸ばし、ミニウインナーの横にあるプチトマトを手で摘んだ。
「あん? なにがだよ? ……じゃないでしょ!?」
 ばんばんばんっ。
 人ん家なので遠慮がちにテーブルを叩く想夜――言いたいことやら聞きたいことやらでモドカシイ。でもまだ13歳。ボキャブラリー少なさすぎ。狐姫のモノマネも入れつつ、目を白黒させてまくし立てた。
 それを御殿が「まあまあ……」と苦笑いでなだめた。

 先ほど2人が台所で倒れこんだ際、御殿の性別が想夜にバレしてしまった。
 それだけでも大問題なのだが、その後、さらなる大問題が発覚する。

 ――なんと、想夜にも御殿と同じ『棒状のモノ』がツイていたのだ!!

 生えたナニと可愛らしい顔を交互に見つめ、「アナタも男だったの!?」と御殿が仰天すると、返ってきた答えが、「し、失礼な! あたしフツーの女の子です!」ときたもんだ。
 その後も想夜は恥ずかしそうに太ももをモジモジさせながら、少し小ぶりな胸と男の子を両手で隠した。「オヤジにも見られたことないのにーっ」――てな具合で。

 どうしたらいいものか。御殿は額に指を当てて状況整理。

「ふぅ……なにこれ。今、どういう状況なの……?」
 御殿は先ほどの衝突事故を思い出す。
 ひとつ気になる点があった――互いのカラダが触れ合った時、想夜の可愛らしいラヴリースティックの後ろあたりに『女の子の秘密の小部屋』がチラっと見えたのだ。いや、間違いなく見えた、間違いない。動体視力には自信がある。


 両性具有――つまり、男女の性器をあわせ持つ存在。
 雪車町想夜はまさにそれだった。


 男女の性器を持つ症例はあるが、人間の場合、生まれて間もなく1つの性に選択を迫られ、性別再判定手術をおこない、片方の性別に絞り込まれることがある。
 そうしなければホルモンバランスも狂ってくるし、精神面にも負荷がかかるらしく、将来的に男女どちらかの道を選ばざる終えないのが日本での常識だ。

 2013年11月。
 ドイツにて、両性の特徴を持つ新生児は性別の記載なしで戸籍を提出してもよいという法案が可決された。
 デンマークでは戸籍に性別欄さえ無い。

 2022年、日本でも少し遅れて同法案が可決されている。
 男女以外の性への関心は世界でも増えてきているが、社会の常識として取り込むには進歩が緩やかなのが現状だ。
 昔ながらの男尊女卑、男女兼業も手伝ってか、古いやり方から抜け出せていない。先進国のなかでも日本はダントツに遅かった。

 御殿は人間界の法律と常識をふまえて想夜に説明すると、いともあっさり答えを返した。
「あたしたち妖精は子供も生めるし、女性に子供を生んでもらうこともできるんですぅ!」
 ですぅ! プゥ~と頬をふくらませ、プィっとそっぽを向く。おまけに、
「御殿センパイのエッチスケッチワンタッチ!」
 と追加攻撃。全身くまなく見られた乙女の羞恥心がそうさせた。
 妖精族はどっちもイケるクチらしい。
 種を残す機能としてはカンペキな生物だった。
 それが妖精界の常識。まさに人間界の常識を超越していた。

 妖精は話しを続けた。
「そ、そんなことより……」
(そんなこと、なんだ……)
 自分の性別など些細な問題らしい。
 御殿は口をパクパクさせてたじろいでいるが、『御殿センパイの秘密』を目撃してしまった想夜のキョドリ具合も負けてはいない。
「御殿センパイだって……お、おおっおオおおチ、おオっおお、おおチ、おっパ、いつ、ツイてるぢゃない、DEATH、ですか!」
「日本語で話せよ」と狐姫。
「日本語だよ!」と想夜。
「通訳呼ぼうか?」とふたたび狐姫。
 想夜は声を荒げた。
「No Problem! I'm understanded! I'm not poor! I got a shampoo in my eyes! Are you OK!?」
「OK,OK. I'm understanded, Your name is "pen", don't you?」
「我、否筆!」
「謝罪。御殿、非常好吃」
「……謝謝、狐姫」
「Hor auf!! Du spinnst ja!!」
「Ja,Ja. Das freut mich. Geht's dir gut?」
「Kein Problem!! Danke schön!!」
「やーやー、にひつつーだんけん。 ……もういいか? 疲れちったよ俺」
「勝手に疲れないでよっ」

 ばんばんばんっ。

 想夜、今度はやや強くテーブルを叩く。声が裏返りまくっていて何を言ってるのか理解不能。
「――しかも御殿センパイ、あたしよりムネ、大きい……」
 「男の子のクセに」。ボソリ、口を尖らせた。
 妖精の想夜からしてみれば、人間の男の胸が女みたく膨らんでいる方がよっぽど珍しい。ひがんで当然。あくまで攻撃対象は御殿センパイだ。
 「神様は何を考えているのか全くわからない気まぐれな人だよねー」「だよねー」「「ねー!」」と世界に賛同を求めたい。そんな気分。

 なんで? どうして? 想夜が興味津々の眼差しで御殿に詰めよってくる。

 御殿は恥ずかしながらも自分の胸元を見つめたり、そらしたりしながら説明した。
「何年か前の話だけど、専属の医師にホルモンバランスが崩れてると言われた。ここまで大きいと他の症状の疑いもあるみたいだけど、声変わりもまだだし……再検査が必要みたい」
 ホルモンバランスが崩れることなど思春期にはよくある。御殿自身、数年前に胸が膨らみ始めたのもそれが原因だと聞かされている。
 にしても、ワガママ放題に実らせたものである。ホルモンバランスおそるべし!

「御殿センパイは声変わりしてない子供というより、女子そのものじゃないですか!」
 ズイッ。想夜が狐姫のほうを見る。
「狐姫ちゃんは男の子と同棲していて平気なの? なんとも思わないの?」
「あん? 御殿は半分女だからいーんじゃね?」
 狐姫の言葉で想夜の顔がパアッと明るくなる。
「あ、そうか。御殿センパイは半分女の子だからそれでいーよね! ……いくないよ!」
 ばんばんっ。ふたたびテーブルを叩く。
「日本語でしゃべれよ」
「日本語だよ!」
「通訳疲れたぜ」
「日本語だよ!」
「おまえ何ヶ国語話せるんだよ」
「全部話せるよ!」
「マジで?」
「んなわけないでしょ!」
「なんだ、つまんね」
「つまるよ!」
「なんだよ『つまる』って。ワケ分からん」
「もー! もー! もー!」
 ばんばんばんっ。
「お? 御殿、コイツ牛になったぜ。乳牛には遠いがな。闘牛ってところか」
 想夜のテーブル叩き。だんだん遠慮がなくなってきている。

「そんなにムキになるなよ。それより――」
 クィ、クィ。狐姫がジト目でフォークの先端を想夜に向ける。
「おまえのほうこそ、どうなの?」
「え?」
 想夜がきょとんとする。
「おまえ、女子寮で生活してるんだろ? そんな体質で大丈夫なのか? 他の奴等になんか言われねーの?」
 ブスリ。狐姫が皿に盛られたミニウインナーをフォークで突っついて口に放りこんだ。
「え? バレないようにしてるよ? 能力閉じれば小さくなっていくし、小さくなれば元通りだし……こうしてる今だって、人間の女の子とかわらないくらい小さくなってて、クリト……って、なに言わせるの! 狐姫ちゃん、今の誘導尋問!」
 バンバンバンバンッ。
 テーブルが2つに割れそう。
((自爆したくせに……))
 無言の御殿と狐姫が箸を口に運ぶ。
 想夜は赤面しながら言い切る。

「つ、つまり……あたし達妖精は、どっちもイケるクチなんです!」

 ズバリ、言い切った。
(ものすごーく便利にできてるな……)
 御殿と狐姫は『妖精は特殊能力を使うと<ピ――>が生える』くらいの知識を得た。

 閑話休題。

「コホン」
 御殿が咳1つ、ピンクに染まった場の空気を和らげた。いつまでも続くこの話、ヒジョーに気まずい。
 大人びた御殿でも下ネタ免疫は低い。これ以上続いたらゆでダコにしまいそうだ。なので妖精の力について話を移行させる。

「能力って言ってたけど、つまり……飛んだり武器を出したりするアレのこと?」
 学校での出来事を思い出しながら質問する。
 想夜は煮え切らない態度でそれに答えた。
「う~ん……まあ、そんな感じかな」
「そう、わかったわ」
 想夜は言葉をにごし、意味深に目を伏せた。

「わたしと狐姫は退魔業を生業としているの。1人で行動する人もいるけれど、わたし達の場合は二人一組で行動している」

 御殿は自分達の立場、それに意識不明事件の経緯を交えて想夜に説明した。勿論、クライアントである愛宮の名は伏せている。

 いっぽう想夜も妖精の知識をレクチャーするが、ハイヤースペックに関しては危険を生むため話を避けていた。
 言葉を隠蔽するほど、会話に不自然さが生まれる。それでも互いの危険を避けるためには仕方がなかった。

 妖精特有の能力に関しては、想夜の煮え切らない態度に疑問を感じた御殿だったが、深く追求することはなかった。隠し事があるのなら打ち明けてくれる時を待てばいいし、なにより想夜がお腹をすかせているのもほっとけない。腕を振るった自慢の料理も早く食べて欲しかった。
「お互い、周囲にバレたら危険な状況下に迫られるわ」
「わかってます、お互い秘密は言わない。約束しましょ――」
 想夜が小指を差し出した。
 御殿は差し出された小指に自分の小指を絡める。

 気を取り直して――。
「重い話は後にしましょう。お腹すいてるでしょ?」
 慣れた手つきでシャモジを握る御殿――その姿は、いつも家事をしている証拠であって、とてもサマになっていた。
「はい、召し上がれ」
 白米をよそった茶碗を想夜に差し出す。
 すると想夜、やや躊躇しながらも手を伸ばす姿を見せた。
 想夜の素直な性格がにじみ出ていて好感が持てる。子猫のような想夜に思わずニッコリと笑顔を返してしまう御殿なのだ。
「あ、ありがとうございます……お2人が作ったんですか?」
「ええ、自炊のほうが安上がりだし、趣味も兼ねて……ね」
「俺は小姑の趣味につき合わされてるだけだがな」

 手料理を前に、箸を持つ想夜の目が輝く。神妙な面持ちだった表情に明るさが戻っていた。
 想夜は湯気の立つ白米を口に運んだ。
「熱っ……あ、甘い。ほんのりと甘くておいしいです!」
「だろぉ?」
 狐姫が横目で想夜を見ながら茶碗にがっついている。
「ゴハンだけで全部イケちゃいそう!」
「だろぉ~?」
 にしし、と狐姫が歯を見せる。

 日本の米は世界最強を誇る。風味、味、ほどよい粘り気、どれをとっても負けはない。

 想夜は初めて人間界に来たときのことを思い出す。
 叶子の家にお邪魔したとき、食事をご馳走になったことがあった。
 シリヒカリというお米が甘くって旨味があって、そのまま白米だけを味わって食べてしまったことがある。
 用意されたおかずには手をつけず、3杯もいってしまった。
 そのあと手をつけたおかずの上手さに電撃が走り、気づいたときにはお腹がいっぱいで、ご飯とおかずを同時に食べる――という楽しみを得られなかったことに涙を呑んだのは言うまでもない。

「あれだけ動いたんだからスタミナ取り戻さなきゃ、ね?」
「はい!」
 御殿にうながされ箸を動かす。
 お酢を使わないポテトサラダはサッパリ感とは無縁のまろやかさ。軽い塩気を含んだキュウリはしっかりと水分を切っているのにシャキシャキとほど良い歯ごたえ。キュウリの塩気を控えめにしている理由、それは細かく刻んだウインナーの塩気が入ることを計算たうえでのこと。マヨネーズとゆで卵がマイルドさを引き立たせ、ご飯によく合う。ポテトサラダだけで何杯もごはんが進んじゃう。

「ん~、おいひ~! こんなにご飯とよく合うポテトサラダ初めてです♪」
 ほっぺに手を添え足をバタバタ。いかにこのポテサラがおいひー・・・・かを表現している。
「だろ? 炭水化物と炭水化物はNG、とか言ってる奴には一生得られない幸腹感だよな?」
「え? なに言ってるの狐姫ちゃん。炭水化物と炭水化物はNGだよ、太るし」
「は? ジャガイモは炭水化物だろーが」
「おかずになったんだから炭水化物に入らないよ」

 『女神の祝福を受けた暗黒騎士はパラディンになる』的な爆弾発言。

「ちょ、おまえ……勝手にジョブチェンジかよ。こんど家庭科のテスト見せてみろ」
「え~、やだよぉ~、恥ずかしいよぉ~」
「たった今恥ずかしい知識を披露したばっかじゃねーかっ」
 だめだコイツ、早くなんとかしないと。狐姫、頭痛で頭が痛い。

「そういえば御殿センパイ。ジャガイモとニンジンいっぱい買ってましたよね」
「ええ。手伝ってくれたお礼も兼ねてるから、遠慮しないでどんどん食べて」
「ありがとうございます♪」
 ゴハンをほおばり、よく咬んで食べる想夜。口の中に残る余韻をキャベツの白だし味噌汁で流しこむ。よくダシが利いているため、余計な塩分を使うことなく想夜の舌をうならせる。薄味であるため、ひとくち流し込むたびに口の中がリセットされ、ついつい他のおかずに箸が動いてしまう。

 想夜が次に箸をつけたのは、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、ひき肉を砂糖醤油とダシで煮込んだ肉じゃがモドキ。肉のうまみと鰹ダシがしっかり利いており、煮込んだ後に少し放置して食材に味を馴染ませている。薄口だけど、しっかりと甘辛い。

 味の染み込んだひき肉とジャガイモ、ニンジン、玉ねぎをご飯の上にのせてほお張る。
「ん~っ、お~いひ~!」
 想夜が箸と茶碗と持ったまま足をパタパタさせ、たまらず身悶える。
「ほう、どれどれ~?」
 顔がほころぶ想夜を見た御殿――審査員よろしく、肉じゃがモドキを口に運ぶ。
「うん……うん……」
 咀嚼後、
 きゅぴ~ん☆
 御殿は笑顔で狐姫に親指を立てた。
「今日は合格」
「おっしゃ!」
 狐姫、ガッツポーズ。
「狐姫ちゃんが作ったの?」
「ったりめーじゃん! 美食倶楽部をなめんなよ!」
「ごめん、意味が分からない……」
 ポカンとする想夜。
勇山ゆうざん先生知らねーの? 破門だな」
「……誰?」
 首を傾げる想夜。

「狐姫はいつもジャガイモ焦がすから」
 しょうがないなあ、といった感じで御殿が眉を悩ましくよせる。
 ジャガイモを焦がすと苦味が邪魔をして一気に味が落ちるらしい。
「少しくらいビターなほうが大人っぽいだろ」
「チョコじゃないんだから」
「まあ、御殿はおこちゃまだからミルク味のほうがいいか? あ、自分のミルクがあったっけ~?」
 チラッ。御殿の胸元に横目をやったが、眉間にシワがよっているので怖くなった。
「サ、サラダでも食うとするか……あ、ドレッシングが減ってるぜ。そう言えば、さっき誰かさんが汁遊びしてたんだっけ~?」
 チラッ。御殿を見ると凄まじい殺気を醸し出していた。
(……やべえ、いつものクセで追加攻撃しちまった)
 狐姫、自爆。
「狐姫、あとでちょっと話があるから――」
 御殿の声がすわっている。
 狐姫の顔が一瞬で青ざめた――はい、夜の説教タイム決定。

 説教タイムはさておき、想夜が楽しそうに話してくる。
「学校近くのコンビニに売ってるバナナチョコチップアイス、おいしーですよ。あたし大好き♪」

 バナナチョコチップアイスとは――バナナアイスにチョコチップが入った商品。おんな子供に大人気だ。

「おう、あとで買いにいこーぜバナナチョコアイス♪ 御殿の分も買ってきてやるよ、カリカリ君ソーダ味でいーだろ?」
「話題がチョコバナナアイスなのに、どうしてカリカリ君になるの?」
 御殿、超不満そうに言う。
 それでも狐姫は御殿をいじりまくる。
「ははーん、さてはアレだな。ソーダ味が気に入らなかったんだろ? わかめスープ味のほうがよかったんだろ?」
「チョコバナナはどこへ行ったの?」
「チョコバナナ食いたいんだろ? だったら素直にチョコバナナ食べたいって言えよ」
「チョコバナナ食べたい」
 即答、早口、棒読み。顔には出さないが子供のようにふて腐れてる。意外と大人気ない黒髪ロング。
 見かねた狐姫が自分の額に指を押しつけて首をふる。気難しい映画監督みたい。
「あ~、違うなあ……なんつーかさ、感情込めていってくれなきゃ! チョコバナナが泣いてるぜ? ほれ、言ってみ? 『チョコバナナ食べたぁ~い♪』 はい5秒前! 3……2……1、きゅーっ!」

「チョコバナナ、食べたぁ~い♪」

 フン、言ってやった――腹の中ではそう思っているドヤ顔の御殿。いつまでもヤラれっぱなしではいかんだろう。『倒れるなら前へ』の精神だ!

 何を勘違いしたのか、2人のやり取りが楽しそうに思えたらしい。ウッキウキの想夜がそれに続いた。

「あたしも御殿センパイのチョコバナナ食べたいです♪」

「「……………………は?」」
 しばしの沈黙のあと、目を点にした御殿と狐姫が想夜を見る。中2女子、さらっと凄いことを言った気がする。
「あたしも御殿センパイとチョコバナナ食べたいです♪」
 何事もなかったかのように笑顔で言い直す想夜。早くも1回目の『御殿センパイのチョコバナナ』は無かったことにしている。

 ちなみに話題にのぼっていたのは『チョコバナナ』でも『御殿センパイのチョコバナナ』でもなく、『バナナチョコチップアイス』である。
 全然違うじゃねーか。どこで間違えたんだよ。誰も気づかないのかよ。
 ※『バナナチョコチップアイス』、テストに出るので間違えないようにね。
「出ねーよ」


 食事中でも他愛のない会話に笑いがたえず、食卓には味覚以外の楽しみがあるということを想夜は知った。
 笑いの絶えない食卓は、いままで食べた食事の何杯分も美味しかった。
「おかわりは?」「いただきます!」「3杯目は恥ずかしそうに――」などなど。なにげない会話に温かみを覚える寮住いの妖精。
 こちらの世界にきてから、遠く離れた家族との会話はほとんどない。

 寮住まいとはいえ、学生同士の共同生活と家族の団欒は同じではない――それは分かっていた。分かってはいるけど、空いた心の隙間を何かしらの代用で埋めるウソの日々。家族と離れ、寂しい気持ちは否めない。

 他人の前だと多少なり構えてしまうところが誰にでもある――想夜もそう。共同生活をしているからといって、他の生徒が家族にみえることなどない。甘えたいけど甘えられない、そんな状況下にいることには違いない。が、学生バランサーだからといって甘えは許されない。

 まだ妖精界に帰りたいとは思わない。やるべきことがある。一人前のバランサーになるまではホームシックは早すぎる。
 けれども時々、人間界にひとりでいることに不安を覚えることがある。それでも思うのだ――こんな食卓が毎日あれば人間界での生活はもっと楽しくなるのに、と。

 想夜は箸を口に運びながら、テーブルを挟んで向かい合う御殿に目を向けた。
(強くて優しくて美人。おまけに料理が趣味。でも男の人……神様がこの人をそんな存在しているのには、きっとなにか意味があるんだろうな)
 想夜は思う――御殿に未来を感じた。この人は大切なものをこの地に生み出してくれる存在なのだと。なにを生み出すのかはわからないけれど、きっとこの世界に何かを残してくれる人なのだと。
 妖精のインスピレーションは予言に匹敵する。今もそうあってほしいと想夜は願う。
 そんな感じで3人の楽しい食卓の時間は過ぎていった。


 夜9時。
 夕食を済ませた想夜。ほわいとはうすを後にしようとしたところ、サンダルで走ってきた御殿に呼び止められた。
「想夜。はい、これ――」
「え?」
「明日までなら保存が利くから、早めに食べて」
 と、おかずの残り物を持たせてくれた。
 今夜、女子寮で奪い合いが始まると予想される。
「あ、ありがとう、ございます。こんなに親切にしていただいて……」
 少し小声でうつむき、遠慮がちにお礼を言う。

「送ってく?」
 御殿の言葉に対し、想夜は首が千切れるくらい大きく横に振った。
「とんでもないっ、美味しいご飯を食べさせてくれただけで、満足だったから――」
 折角の好意、だが断った。晩ゴハンの至れり尽くせり、おまけに送迎までされたら罪悪感で気が潰れてしまいそう。
「そう? また、食べにいらっしゃい」
「はい!」
 御殿の一言に今後も甘えることだろう。そのくらい美味しくって楽しくって。
 想夜はいつまでも笑顔のまま、見送る御殿に大手を振った。
「ちゃんと前見て歩きなさーいっ」
「はーい♪ あイターッ」
 言わんこっちゃない。さっそく看板に激突した。

 明日は御殿と一緒に狐姫の街案内をすると約束をしたので、要請実行委員会としてはまだまだお役に立てそう。
 想夜は細い路地を戻り、大通りに沿ってトコトコ家路を急いだ。


 帰宅途中のサラリーマンや学生達とすれ違う中、想夜は頭上に広がる夜空に目をやる。たくさんの星が輝いていてプラネタリウムのよう。
「星がきれい……でも、寮の玄関は閉まってるだろうなぁ、とほほ――」

 寮の門限は比較的ゆるく設定されている――バイトや習い事をしている学生達のためだ。夜9時まで開いており、苦学生には嬉しい時間設定。もっとも、学校と寮長にバイトの申請をしなくてはならない。
 想夜は申請をしておらず、見つかったら問答無用で停学。理由によっては退学にもなりかねない。なので、深夜のパトロール後はいつも自室の窓から出入りする――今回もそのつもりだった。

「あたしくらいのレベルになれば、羽なんぞ使わなくても電柱をのぼって建物に飛び移ることができちゃうんだから!」
 以前、不審者がこの手を使って女子寮に侵入しようとしたことがあった。挙句、おまわりさんに追いかけられて捕まっていた。想夜はその光景を見た途端「その手があったか!」と手を打った。以来、変態一号を心の師として、スキル名『門限破り破り』をマスターしたのである。

「拝啓、変態師匠。檻の中は寒いですか? あたしは元気です♪ かしこ」
 想夜は山から下りてきた猿みたく電柱をよじ登る。
「はあ、一応あたしも苦学生なんだけどなあ~。夜勤やサービス残業もあったりで忙しいんだけどなあ……文科省はもっとあたしに優しくするべき。この世の不条理、スカポンタン」
 と叫ぶ軍人の気持ち、きっと誰かは分かってくれるさ。

 帰宅後、女子寮は獲物の争奪戦だった。お土産を持ち帰った想夜めがけ、匂いを嗅ぎつけた野獣の群れが襲い掛かってきたのだ。
「おいしー、なにコレー!」
「想夜が作ったの?」
「ううん。これはね――」
 想夜が御殿と狐姫が転入してきたことを報告するなか、みんな指づかみでほお張っていた。箸なんか使うやつはいない。それだけ美味しいということだ。

 御殿と狐姫が作ってくれた料理は評判がよかった。
 作り方を教えてもらうために御殿と狐姫を紹介してほしいとのこと。
 もちろん想夜は、2人を寮生たちに紹介するつもりでいる。

 ふだんの想夜は寮生ともあまり話さない。距離感がある。
 いや、寮生が想夜と話さないのか。どちらにせよ距離があることに変わりはない。
 お土産の肉じゃがとポテサラが、自分と寮生達との距離を少しだけ埋めてくれた――そんな気がした。


 自室に戻った想夜は羽根ペン片手に悪戦苦闘していた。
 妖精界への報告書を作成しなくてはならない。

 エーテルバランサーは週に一度、人間界で起こった事件を書類にまとめて妖精界に報告する義務がある。能力者の気配を探知した時はとくに報告のやり取りが行われていた。今回はそのケースにあたる。

 書類の作成とはいっても、いく枚もの用紙に書き留める技法ではなく、四角形の平たい水晶に向かってペンを走らせてデータを記入するやり方だ。データ作成後、フェアリーフォースに転送する。人間界ではデータ送信技術にあたる。

「えーと、報告書……っと」
 想夜は最近の出来事を一つ一つ思い出してみる。
 簡潔に、箇条書きで報告書を作成、その後ろに詳細を記入してゆく。
 年頃の女の子には責任大の作業だが、仕事とプライベートは別である。
 暴魔との空中戦、深夜のMAMIYA研究所での襲撃、学校襲撃を報告。
「御殿センパイのことは書かない。これ以上、妖精界の争いごとに巻き込みたくないもん」
 華生の名前も伏せておいた。彼女についてはまだ調査段階にある。中途半端な報告は混乱を招く恐れがあるからだ。
 水晶にスラスラとペンを走らせ、それを転送。

「ふう、おーしまい♪」
 ゴロンとベッドに横たわり、窓から星を見つめる。
「……あした学校、どうなってるかな」
 想うは今日の出来事――校内で襲撃され、怯え、それでも戦い、負傷し、勝利した。それから、絆を紡いだ。そんな一日だった――。
「……ご飯、おいしかったな」
 まどろみの中へ――想夜はそうして眠りについた。

 ちょうどその頃、聖色警察署に通報が入った。学校付近の雑居ビルで身元不明のバラバラ死体が数体発見されたとのこと。
 通報者の証言『鋭利な刃物で肉片が綺麗に切断されていた――』。


 翌日――。
 愛妃家女学園はちょっとした騒ぎになっていた。近くのビルで複数の死体が目撃されたという。
 深夜、通報を聞いて駆けつけた警察が現場に到着した。簡単な見回り調査をしたものの、足場が水浸しで争った形跡もない。死体はおろか、血痕すら見つからなかった。人の出入りも確認できない。
 それらの理由から事件性は認められず、通報者のイタズラで済まされていた。
 なんとも、狐に摘まれたような不可思議な出来事だった――。


逃亡者確保


「うう、胃が痛い」
 想夜は登校中、昨日の暴魔戦を思い出して足が重くなった。多数の器物破損がバレたら一発退学だ。
(そんなのはイヤ。判決前に死刑宣告とか。せめて弁護人くらいつけてほしいよ)
 想夜のすぐ目の前、生徒たちが何やら騒いでいる。
「えー、なになに? なにが起こったの?」
「わかんなーい、校舎がめちゃくちゃなんだってー」
「いやーん、変態よ変態!」
 生徒たちの横を野良猫のようにコッソリと進んでゆく想夜。バレたら地獄だ。

 案の定、校内は窓ガラスの破損や貯水タンクの崩壊で大騒ぎだった。
 消火器の中身が撒き散らされていたり、ホースが投げ出されていたり、廊下の壁がベコリとへこんでたり。

 学校側の対応はこうだ――何者かが暴れた痕跡も目立ったが、学園側は大事になることを避け、『外壁の亀裂が原因で校舎の一部が破損、その時に消火器などが落下して中身が飛び出した』――という偽の情報に終息させていた。

 昨夜、御殿から事情を聞いた宗盛が学校側に通達を出し、襲撃事件を抹消した――御殿と宗盛。事を荒立てると両者とも動きにくくなるので、今はそうしたほうが良いとの判断からだった。

「なんか知らないけどバレなかったみたい、ラッキー♪」
 裏事情を知らない想夜は気楽なもんである。一瞬で胃痛が引いちゃった。
 スキップスキップ♪
 ふたたびの襲撃も予想していた想夜だったが、御殿曰く「学校中に聖水を撒いたのでしばらく暴魔は襲ってこない」らしい。その言葉に安心する。
 貯水タンクをぶち壊した甲斐があった。聖水入りの貯水タンク。魔よけにしては豪華すぎる。さすが私立。さすがMAMIYA。

 けれども乱闘後の愛妃家は水不足に陥り、水飲み場やトイレまで使用不可となってしまった。それが理由で高等部校舎を利用する者は皆、隣接された中等部校舎にわざわざ出向くことになってしまう。
 「蛇口を捻れば水が出る」という夢のような過去が懐かしい。あの頃はよかった――高等部総員、水のありがたみが身にしみているようだ。


 授業が少しだけ早く終わった想夜は、早めの昼食をとることにした。
 その前にトイレに立ちよる。なんてったって高等部の生徒まで並ぶ大行列。早め早めが肝心だ。

 中等部、高等部。入り乱れての女子トイレ。
 想夜は洗面台の鏡の手前、ハンカチで手を拭く。

 トイレから出てすぐ、入ってきた狐姫とバッタリ出くわした。
「うお? 想夜じゃん」
「あ、狐姫ちゃん」
 クラスは違えど同じ中等部。トイレの混雑に巻き込まれていたらしい。 「どうした浮かない顔して……ゲリ? お可哀想に」
 狐姫がワザとらしく、気の毒そうに想夜を覗き込む。酷い挨拶だ。
「ち、違うよ! 良好だよ!」
 完全否定。嘆きの健康優良児。
 想夜の横をすり抜けざま、狐姫が耳元でこんな事を囁いた。

「そういえば昨日の夜、コンビニ帰りに愛宮メイドを見たぞ?」

「愛宮メイド?」
 昼食前の会話は意外な内容だった。狐姫が自分の目をまあるくして指差した。
「ほら、目が真っ赤な奴。こう、髪が長くって甘ったるい名前の……プリンじゃなくてゼリーじゃなくて、なんつったっけ?」

 想夜の胸がざわついた。

「赤い目……華生さんのこと?」
 ゴクリ。唾を飲み込む想夜は調べたデータのことが頭に浮かんだ。不審な動きをする者、メイド、赤い目、思い当たる人物は彼女しかいない。
 狐姫がにぱぁと笑う。
「そうそう、ケーキケーキ。愛宮の連中は夜遅くまで働いてんだな。メイドってめんどくせ~な~。ゼッテーやりたくね~」
 ははは……と無邪気な笑みで八重歯を見せ、後頭部で手を組んだまま去っていった。

 想夜はこの上ない寒気に襲われていた。
 理由はわからない、誰にでも備わっている野性の感だろうか?
 狐姫の言ってることが正しければ、華生はなぜ遅い時間に出歩いていたのだろうか?
「――ううん、ここで考えても答えにたどり着くわけじゃない」
 想夜は頭を切り替えた。


 中等部からホールへ抜ける時に少し遠回り。混雑を避けるため、想夜はいつもは使わない通路を通る。
 その際、売店へ食料を運搬する業者と出くわす。
 その中に偶然、知ってる顔を見つけた。
「あれは……」
 愛宮の従業員が出入りしている光景を初めて見た想夜は先日、「売店で並ぶ食品もMAMIYAが作っている」と叶子から聞いたのを思い出す。
 どうやら今回、その運搬作業に出くわしたらしい。

 愛宮メイドがパンの入った平たいケースを運んでいる――九条華生。額に汗してパンや弁当の詰まったケースを運ぶ姿は、どう見てもただの若い労働者だ。

「彼女が妖精だなんて、誰も知らないんだろうなあ」
 想夜は廊下の角に身を隠し、仕入れを終えた華生を待ち伏せた。

 ――ゴクリ。

 生唾さえも大音量に聞こえるほどの静けさ。
 前回会った時、華生は気を失っていたので、こうして直接会話に踏み切るのははじめて。けっこう緊張する。
 両手で平たいケースを抱えて近づいてくる華生。
 頃合を見た想夜が彼女の前に立った。

「こんにちは、愛宮邸メイド……いえ、逃亡者 九条華生さん」
「――!!」

 バタン!
 よほど驚いたのだろう。想夜の姿を目にした途端、華生は赤い瞳を見ひらき、空のケースを足元に散乱させてしまう。ひどく怯えた様子で後ずさり、まるで森の中で熊に遭遇したお嬢さんのよう。
「あらためて間近で見るとよくわかる――人間離れした容姿、絵画から飛び出してきたような姿……まさしく妖精そのもの!」
 ズビシィ! 犯人を特定した探偵よろしく、想夜が指さした。
「ご、ごめんなさい!」
「待って!」
 想夜は逃げようとする華生の手をとり強引に引き止めた後、真剣な眼差しを逃亡者に向けた。
「あたしはエーテルバランサー雪車町想夜。九条華生さん、話……聞かせてくれるよね?」